【 STORY 】
　１６００年 関ヶ原。東西両軍合わせて約二十万『天下分け目の決戦』は僅か一日で幕をおろした。それにともなう戦死者二万、いや三万…それ以上。その膨大な屍の山を見た将軍徳川家康は一カ所にまとめ葬るよう命じた。
　地主「大伴兼重」は日々運び込まれる屍の数に苦しめられていた…。死臭が土地全体を包み込み、流れ出る血が流れる佐備川を真っ赤に染め、火葬しようにも大量の血がそれを拒む。『風葬（ふうそう）』ついには屍が朽ちるのを自然に任せて放置するしか他無かった。屍は朽ちる、さりとて想いは残る…。戦死者達の苦しみ、憎悪、未練…その負の想いが無念の血と共にその地に染み込み、ついに、大量の魑魅魍魎をうみだした。取り憑かれ、生成りして行く生者達。集められた兵や僧も敵わず…いよいよ勢いを増す魑魅魍魎達の前に４人の術者が現れる。「橘七狸」と「獅子王」「拒魔狼」そして渡り巫女の「紗英」である。４人は香木『楠木』をもって外界とその土地を遮断して魍魎達を閉じ込め、次々に浄化させていく。事態は沈静化に向かうかに見えたその時、苦しみ荒れる一人の女が現れる。兼重のお局…「桔梗」。腹には兼重との「子」を宿していた。あろう事か、追い込まれた数えきれない魑魅魍魎がこぞって桔梗に取り憑いたのである。桔梗を救うか子を救うか、何れにしてもどちらかは侵され、その身は滅びる。手を封じられた七狸達。突然…術を唱え始める紗英。魍魎を桔梗から剥がして自らに取り込むという決死の術『口寄せ』である。そうする事で自らは侵されてしまうが、同時に二人を救う事が出来る。七狸達の制止を振り切って術を発動させ、魍魎を取り込む事に成功した紗英。早く、早く私を殺して！！ためらう七狸…。やがて…紗英と桔梗、諸共全てを飲み込んで魍魎の王「鬼神」が姿を現した。鬼神の出現に再び勢いを取り戻す魍魎達。窮地に追い込まれる七狸だったが橘家に代々伝わる『妖刀イワヌカ』を使い、激闘の末に鬼神をその地に封印する。一瞬の静けさの後、どこからともなく聞こえてくる赤子の泣き声…。この子は我怨念を受け継ぎ、未来永劫この怨念を残す子として生き続ける…。七狸の耳に、赤子の泣き声がいつまでも止む事無くこだましていた…
　いつしかその土地は不気味な妖気をまとっていた。誰も近づかず、地図にも載らない忘れられた土地…。人は忘れていく生き物、しかし土は忘れない。その負の想いを幾年も留めていくうちに、その土地に一つの言葉が生まれた。
『イワヌカノノロイ』
　時は過ぎ、『天下分け目の決戦』から２５０年を数える１８５０年。世間が幕末と騒ぎ始めた頃…。知識と行動と巧みな言葉使いで無理難題を解き明かして暴利を得る『阿倍野橋@霊界商事』代表「阿倍野橋 西明」の元に一件の依頼が舞い込む。『イワヌカノノロイ』から娘を守って！送り主が示すそこは特異な芳香を放つ大量の香木の森に囲まれ、近隣の藩から忌み嫌われて誰も近寄らなくなったという…『楠木藩』。そこは、まさにあの『風葬』が行われた土地であった。その『楠木藩』では「大伴兼継」の藩主擁立を記念して城の建て替えが行われる事になっていた。そしてその基礎として藩代々の習わしで人柱を立てるという。『イワヌカノノロイ』を祓う為の人柱に選ばれた娘…楠木藩小深村の「鈴」。藩を取り仕切る家老「喜志朝永」の追っ手から逃げていた鈴を助ける西明達。その鈴の口から、この土地にまつわる『イワヌカノノロイ』の真相が語られる…それは、２５０年の時をまたいで複雑に絡み合った『縁』の糸がほどけ始めた瞬間であった。